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2022.06.22

E-0124. TomoScopeの冷却システムについて — M.H

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TomoScopeの冷却システムについて

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「測定の新常識!?SOLがお伝えするノウハウ!」
2022年6月22日号 VOL.124

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTによる精密測定やアプリケーション例などをテーマに、
無料にてメールマガジンとして配信いたします。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



営業技術グループの長谷川です。

早いもので、エスオーエルへ入社して半年が経過いたしました。
担当製品である三次元測定機とX線CT装置は非常に奥が深く、
まだまだその深い世界の入口で右往左往している状況です。

しかしながら、一筋縄でいかないことは
長い人生を楽しんでいくためにも有難いことだなと、
日々感じています。


以前読んだ本の一節に
「辛いとき、苦しいときこそ成長している」とありました。

人間には居心地の良い場所や立ち位置
(コンフォートゾーンと呼ぶらしいです)があり、
自分の身を守るためにも、そこに留まろうとする働きが
常にかかる仕組みになっているようです。

ただ、不便なことにその状態では負荷がかからず、
成長はありません。

そして感情の振れ幅も生まれないので、後から振り返っても
「あれ?あの時何してたっけ?」と虚無感を覚えてしまいます。


一方で、自分のこれまでの歩みを振り返ってみると、
学生時代に部活動を頑張っていた時、必死に勉強していた時、
社会人となり新しいプロジェクトを任され悪戦苦闘していた時、と

いずれも成長を実感した時期の記憶は、
辛さや苦しさを伴うものばかりでした。

事が終わって振り返ってみると、
その経験から得られた学びや、喜怒哀楽の感情の振れ幅が
自分の人格形成に大きくプラスとなって積みあがる感覚があります。
(とはいえ、いたずらに辛い思いをすることが正しいとは思いませんが。)

まだまだ先は長いですが、日々感じるありとあらゆることを
大事にして生きていこうと思います。



さて、本題に入ります。
本日はTomoScopeの冷却システムについてお話します。

世の中のX線CT装置は、
高速の電子をターゲット(陽極)に衝突させることで
X線が発生する物理現象を利用しています。

衝突した電子のエネルギーのうち、
X線に変換されるエネルギーは、ほんの僅かです。
具体的に電子の何%が発生するX線に寄与しているかは、
下記の式で求めることができます。

  発生効率[%] = CZV × 100
  C:定数(1.1×10^-9)  Z:陽極物質の原子番号  V:管電圧

ターゲットは非常に高い温度となるため、
融点が高い物質が選定されるのが通常で、
TomoScopeではタングステン(原子番号74)
が使用されています。
(融点は約3400℃。世界で一番溶融点が高いといわれています。)

実例として、管電圧100kVのX線を照射した場合の
発生効率を計算してみましょう。

  発生効率[%] = 1.1×10^-9×74×100000×100 = 0.814[%]

上記の通り、0.8%しかX線発生に寄与しておらず、
残る99.2%はほぼ熱エネルギーとなります。

管電圧を150kVに上げたとしても1.2%にしかならず、
通常使用される測定条件においては
約99%が熱エネルギーとなる、
と理解してしまっても差支えはなさそうです。

以上より、X線照射に伴い発生する熱エネルギーの割合は
非常に大きいことが分かりました。

実際、陽極付近の温度は照射条件にもよりますが
数千℃まで上昇します。
これを放置すると加熱によるターゲットの溶融や変形により、
X線管の破損へと繋がりますので、
冷却水を循環させて陽極付近を冷却するシステムとなっています。


では続いて、冷却性能について説明いたします。
基本的に冷却側と被冷却側の熱交換量(熱収支)は等価です。

  厳密に言えば、熱交換部以外での熱ロスが存在するため、
  完全に一致はしませんが、熱ロスは軽微であることと、
  詳細な計算が非常に難しいため、ここでは等価と考えます。


冷却側の熱交換性能(受熱量)は、
以下の式で求めることができます。

  Qw[W] = Gw × γw × CPw × ΔTw
  Gw:水流量  γw:水密度  CPw:水定圧比熱  ΔT:出入口水温差


TomoScopeでは、
冷却ユニット内に取り付けられた空冷ファンユニットにより、
出口水温(X線管から戻る側)が室温同等まで冷却された後に
タンクに戻ります。

これにより、入口水温(X線管へ入る側)は
一定温度に制御されていると考えられます。

この場合、水密度と水低圧比熱は変化しません。
(水密度は入口温度に反比例し、水低圧比熱は入口温度に比例します。)

このことから、上記の条件において熱交換性能は水流量に比例します。
しかし、水流量が増えるほど出口水温が低下し、
徐々に入口水温との差がなくなっていきます。

ある程度のところで
流量増による放熱量の増加量は緩やかになっていきます。
(熱交換効率がサチレートしていきます。)


TomoScopeは主電源ON時、
冷却水の循環ポンプにより一定出力で冷却水が循環されるため、
陽極付近は常に冷却されています。

しかし、フィードバック制御により流量調整が
されているわけではないので、ポンプの経年劣化による出力低下や、
冷却水回路の通路抵抗上昇で流量低下が発生し得ます。

特に通路抵抗の上昇は様々な要因が考えられ、
配管内(特にフィルター部や流量計)のゴミ詰まりや
冷却水チューブの極端な折れ・曲がりにより、
通路抵抗が上昇する可能性があります。


通路抵抗は、以下の計算式で求めることができます。
(計算を分かりやすくするため、円管として考えます)

  ΔPw = ξρv^2/2 + λLρv^2/2d
  v = Q/A = 4Q/πd^2

  ξ:損失係数  ρ:密度  v:流速
  λ:管摩擦係数(層流時はλ=64/Re)
  L:管路長さ  d:管径  Q:流量


この式の左側の項は慣性抵抗、
右側の項は粘性抵抗をそれぞれ表しています。

式を見ての通り、流速の寄与率が高く、
その流速は管路断面積に反比例して増大します。
(損失係数も抵抗が大きくなる方向へ増大します。)

また、管径が細くなるほど粘性項の分子が小さくなります。
管内のゴミ詰まりやチューブの折れ・曲がりは
管路断面積の減少に直接繋がりますので、
これが原因で局所的な流速が上昇し、
システム全体の通路抵抗が上昇、冷却水流量の低下を招きます。

こうなる前に、弊社が定期的なメンテナンスをご提案し、
冷却水の全交換、冷却水フィルター及びチューブの
計画的な交換をご提案しております。

チューブの折れや曲がりは、直接触らない限りは
あり得ないので発生するリスクは低いですが、
ゴミ詰まりや、金属片、チューブ内壁の削れ等は完全に予防できず、
避けることができません。

ご提案の際は、装置を長期的かつ安全に使用していただくためにも、
是非ご検討いただけますと幸いです。

それでは今回はここまで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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M.H

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