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2009.11.10

D-0008. Legendre多項式とフォトマスク — TT

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Legendre多項式とフォトマスク

発行:エスオーエル株式会社
http://www.sol-j.co.jp/

連載「知って得する干渉計測定技術!」
2009年11月10日号 VOL.008

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
干渉計による精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

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Legendre(ルジャンドル)多項式と言うと、聞き慣れない人が多いと思います。
応用としては、電磁気学や量子力学を使っている方なら、御存じかもしれません。
また、これ自体、数学的に興味深い対象ですので、
微分方程式論を学ばれた方などは、お目にかかったことがあるかもしれません。


干渉計による超高精度測定が必要なものの一つに、
フォトマスクと呼ばれる半導体デバイスの原版になるものがあります。

実は、Legendre多項式の応用として、フォトマスク表面形状の解析があります。
今回は、その一部を御紹介します。



<Legendre多項式とは>

Legendre多項式の表示方法は、いろいろありますが、まずどんなものか見てみましょう。

P0(x) = 1
P1(x) = x
P2(x) = (3x^2 - 1)/2
P3(x) = (5x^3 - 3x)/2
P4(x) = (35x^4 - 30x^2 + 3)/8
P5(x) = (63x^5 - 70x^3 + 15x)/8
P6(x) = (231x^6 - 315x^4 +105x^2 - 5)/16
...

と、ずっと続いていきます。
これらを Pn(x) と書き、n次のLegendre多項式と呼びます。


Legendre多項式の重要な性質の一つに直交性というものがあります。
Pn(x) と Pm(x) を掛けて、-1 から 1 まで積分すると、
n=m 以外では 0 になるという性質です。式で書けば、

∫Pn(x)Pm(x)dx = 2δmn /(2n+1)

という具合です。(積分範囲は[-1,1])

この性質により、Legendre多項式は、閉区間[-1,1]において、完全系を成しています。
平たく言うと、xが-1~1の範囲のどんな形状曲線も、
各Pn(x) に適当な係数を掛けて、足し合わせると再現できることになります。


もう一つ特徴的な性質として、
Legendre多項式 y = Pn(x) は次の2階微分方程式:

(1-x^2) d^2y/dx^2 - 2x dy/dx + n(n+1)y = 0

の解になっているということです。



<フォトマスクの形状解析>

さて、フォトマスクの表面形状において、
Legendre多項式がどう関係するかを簡単に説明致します。

通常フォトマスクは、6インチ角の正方形です。
従って、スケールを簡単にとると、
領域 -1≦x≦1, -1≦y≦1 がフォトマスクの横方向(x,y)で、
表面形状(高さ z)はその領域の関数と見なすことができます。

そこで、Legendre多項式を2次元に適用すれば、この形状を解析できることになります。

Pm(x)とQn(y)をそれぞれLegendre多項式として、
a(m,n)をその係数とすれば、
z=W(x,y)という任意の形状関数は、Legendre多項式の足し合わせ:

W(x,y) = Σ_n Σ_m a(m,n) Pm(x) Qn(y)

に分解できます。
(ここで、Σ_n と書いたのは、n=0 ~ ∞ まで和を取るという意味です。)


ここで、平面度を解析したい場合、平面度とは何かを定義する必要があります。
定義するために考えなくてはならないことはいろいろありますが、
ここではLegendre多項式に関係あることに絞って説明します。

表面形状にはいろいろな成分(モード あるいは 周波数)が含まれています。
その成分は、大きく分けて以下の3つの大別できます。

① 粗さ
② 微小うねり
③ 平面度

この色々と含まれた成分の中から、平面度だけを抽出しなければいけない場合、
一つ問題があります。
それは、平面度という定義が、それ程明確ではない事です。
(ここでは、どこまでが微小うねりでどこからが平面度かが明確でないという意味。)

その一方で、厳密な定義は、それほど必要とされていません。
フォトマスクが使用される Lithography分野で必要とされているのは、
平面度の定義ではなく、平面度という指標を用いたプロセス・コントロールだからです。


EUVLでは、粗さや平面度に厳しいスペックが要求されます。
例えば、粗さは、光の散乱の原因となり、光量低減を招きます。
平面度は、Depth Of Focus(焦点深度)の議論から必須です

そこで、EUV用フォトマスクの平面度として、
Legendreの低次項を解析するという事があります。
高次項は、粗さなどの別の検査に寄与するものなので、
平面度の解析にはそれほど重要ではないと考えられるからです。

ある報告によれば、平面度はLegendre多項式の5次項までとれば、
必要なほとんどの成分が抽出できるとも言われています。

また、Tropel社及び弊社の経験上でも、Legendre多項式の5次までとれば、
Maskの全面形状を解析するのに十分であると考えています。
(6次以上をとっても、5次までで得られる情報と大差ないという意味です。)

弊社のような測定機メーカーとしては、
平面度の定義を規定するよりも、測定時のノイズ問題に対する改善として、
Legendre多項式を使う場合がほとんどです。
ノイズは、高次の成分に影響するため、Legendreの低次を抽出することは、
ノイズをカットする事とある意味同等になります。

上記のような事を踏まえると、
高平坦フォトマスクの平面度解析にLegendre多項式が用いられている理由が解ります。



<モードについて>

最後に、上述の議論は、フーリエ展開や線形代数の要点を理解している場合には、
それほど難しくはありません。
フーリエ展開では、関数がsinやcosの項で展開されていました:

f(x) = a0 + a1 cos x + b1 sin x + a2 cos 2x + b2 sin 2x + a3 cos 3x + ...

これがLegendre多項式になっただけです。
フーリエ展開ができるのも、フーリエ多項式が直交性:

∫sin(mx) sin(nx) dx = πδmn

を持っており、基底を張っているからです。(ここでの積分範囲は[-π,π])
直交しているとは、内積をとった場合0になると言う事です。
X方向のベクトルとY方向のベクトルの内積は0です。
関数の内積もベクトルの内積の簡単な拡張であり、
次元も多くなり過ぎて無限個になった程度のことです。


また、sin や cos は、2階微分方程式:

d^2y/dx^2 + k^2x = 0

の解でした。
Legendreでは、これが少し複雑になっただけです。そうすると、
フーリエ展開で、「モード」と言ったり「周波数」などと言ったりしていたものが、
Legendreでも同様な意味で用語が使えることが納得できます。



以上、かなり特殊なアプリケーションについて説明しましたが、
測定解析において、いつどんな知識が役に立つか分かりません。

我々が多くのアプリケーション開発を通して感じていることです。

表面形状測定や解析において、諦めてしまっていることは御座いませんか?
是非一度、弊社エスオーエルに御相談下さい。



2022年追記:
「Legendre多項式の5次項までで必要なほとんどの成分が抽出できる」
と書いていましたが、10年程でそれでは足りない時代になっています。。


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高野智暢

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