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2023.07.12

A-0148. 指数関数の拡張について — T.T

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指数関数の拡張について

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2023年7月12日号 VOL.148

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



前回は、ロジカル(論理的)であるためには、
スタートとゴールとルート(道筋)が明確であること
というお話をしました。

数学は、ロジカルに展開していくものなので、
自由とは対極の決まりきったものと捉えがちです。

しかし、数学というのは、人間が抽象的に物事を捉えて、
表現する手段なので、自由な精神活動です。

まさに、切り口や発想は無限にあります。


  例えば、角を三等分する方法が一般には存在しないことは、
  角の三等分問題として古代ギリシャ時代から知られた問題で、
  証明されたのは19世紀です。人類が挑み続けた難問です。

  ただ、定規とコンパスのみを用いるというルールの範囲内あり、
  このルールを緩めた範囲では、可能になります。
  確か、折り紙公理と呼ばれるスライド動作を許すルールだった
  かと記憶しています。

  この、定規とコンパスのみを用いる範囲内の数学というのは、
  多くの人を悩ませ、多くの人の人生を賭けさせる程の魅力が
  あるものです。代数方程式とも関連し、奥が深いです。

  何が言いたいかというと、「角の三等分は不可能」と覚えても
  あまり意味がなく、角の三等分が必要ならルールを変えて
  可能にできる程度のものだということです。

  似たような話として、五次方程式の解の公式が存在しないことも
  人類の苦労の末に証明されていますが、
  有限回の四則演算と冪根を使うというルール内の話であり、
  楕円積分と楕円モジュラー関数の使用を許せば、公式化は可能です。


それで、今回書きたかったことは、
前回の話をやり直そうということです。

前回は、テーラーの定理を使えるという前提で、
指数関数の級数展開表示を導きました。

指数関数の定義を級数表示にしてしまうというスタート地点もあり、
それが本来やりたいことです。
でも、天下り的に級数表示を与えるのではなく、
複利計算と関連の深い定義式:

  exp(x) = lim_{n→∞} ( 1 + x/n )^n

から始めて、それの級数表示を導いてから、
では定義を級数表示の方に入れ替えることで、
指数関数の拡張ができるんです!という話をしたいのです。

そして、テーラーの定理を使う道筋を美しく完成させるためには、
とても苦労が多いということに気付いたので、

二項定理を使う道筋を通りたいという欲求が出てきた次第です。
ただそれも、やってみると苦労が多く、書き切るのは面倒でした。
というわけで、こんな道筋がありますよという程度の記事になります。


まず、二項定理は証明しておく必要があります。
しかも、負の数の組み合わせという一般化が必要です。
二項定理というのは、

  (a + b)^n = Σ(n!)/{k! (n-k)!} a^(n-k) b^k

というやつです。


次に、

  lim_{n→∞} ( 1 - x/n )^(-n) = exp(x)

を証明します。左辺を変形していくと、

  lim_{n→∞} ( 1 - x/n )^(-n)
  = lim_{n→∞} (n/(n - x))^n
  = lim_{n→∞} (1 + x/(n - x))^n
  = lim_{n→∞} (1 + x/(n - x))^(n-x) (1 + x/(n - x))^x
  = exp(x) (1+0)^x
  = exp(x) 

となります。


そして、

  fn(x) = 1 + x + (1/2!)x^2 + ... + (1/n!)x^n

を定義しておいて、x > 0 の場合を考えます。すると、
二項定理から、

  (1 + x/n)^n = 1 + n(x/n) + n(n-1)/2! (x/n)^2 + ... + {n(n-1)...1}/n! (x/n)^n

なので、fn(x) の各項と比較して、

  (1 + x/n)^n < fn(x)

が言えます。
続いて、n > x において、

  (1 - x/n)^(-n) = 1 + n(x/n) + n(n+1)/2! (x/n)^2 + ...

なので、

  fn(x) < (1 - x/n)^(-n)

です。合わせると、

  (1 + x/n)^n < fn(x) < (1 - x/n)^(-n)

なので、n→∞ のはさみうちの原理から、
(1 + x/n)^n → exp(x) と (1 - x/n)^(-n) → exp(x) によって、
fn(x) → exp(x) が言えました。

さらに、x < 0 の場合も、少し工夫して証明することで、

  1 + x + (1/2!)x^2 + ... + (1/n!)x^n + ... = exp(x)

が一般に証明できます。
(x=0 は、exp(0)=1 なので簡単に言えます。)


ここにきて、ようやく、
exp(x) = lim_{n→∞} ( 1 + x/n )^n から始めると、
1 + x + (1/2!)x^2 + ... + (1/n!)x^n + ... = exp(x)
が言えることが分かったので、逆に、

  exp(x) = 1 + x + (1/2!)x^2 + ... + (1/n!)x^n + ...

から始めて、全ての性質を導きましょうという方向性が見えます。


この表示の何が有難いかというと、
exp(x) が x の冪と係数の掛け算とそれらの項の和になっているだけ
なので、x に自然数や実数以外のものを入れるという拡張ができることです。

x に虚数や複素数を入れることができます。
さらには、行列や演算子を入れても定義することができます。

exp(x) が ネイピア数 e の x 乗という意味を持つことは、
別途確かめる必要があることです。

でも、x 乗と言った時には、e という数を x 回掛けるという意味だったはずが、

複素数回掛けるとか、行列回掛ける のような
普通では想像もできない操作への拡張ができるということを知ると

人類の発想力は凄いと思うのです。


--
高野智暢

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