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2017.08.09
A-0073. コーシー・リーマンの式 — TT
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コーシー・リーマンの式
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2017年8月9日号 VOL.073
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。
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ある分野の勉強をした人であれば、
必ずやったことがある計算というものがあります。
逆に言うと、そのような計算を一通り押さえれば、
その分野の勉強をしたということになります。
そのような計算には2タイプあって、
(1) その計算をやらなければ、その分野が始まらない。
(2) その計算ができれば、ある一定の到達点に着いたことが分かる。
というものです。
前回から話題にしている複素解析では、
コーシー・リーマンの式 というものがタイプ(1)に当たります。
コーシー・リーマンの式 を計算したことがなければ、
複素解析がどんな数学的対象を扱おうとしているのか
分からないということになります。
複素解析で、タイプ(2)に相当するものは、おそらく
∫(sin x)/x dx = π/2
の計算です。
積分範囲は、0~∞ の実数範囲です。
実数範囲の積分を実行するのに複素解析が必要という状況を体験すると、
体験した人にしか分からない視野の広がりを感じることができます。
今回は、コーシー・リーマンの式 の計算をやってみます。
そのためには、まず、
複素数 z を決めるとそれに対応して複素数 w = f(z) が決まるという
関係 f を考えます。
そして、微分の定義を思い出す必要があります。
複素数になっても微分の定義式をそのまま適用すると、
f(z) が z で微分可能なとき、
lim {f(z+h) - f(z)}/h = (d/dz)f(z)
が決まるというということになります。
lim は、極限を取る操作で、h→0 です。
さて、今考えている複素数を実数 x, y の成分に分解して、
z = x + iy
f(z) = u(x,y) + iv(x,y)
と書きます。u, v は、実数の関数です。
これを微分の式に代入して計算します。
このときに 0 の極限を取る h をどのように入れるか
という問題が生じます。
つまり、f(z) の微分を考えるときに、
実数成分で x+h とするのか、虚数成分で y+h とするのか
という問題です。
そこで、複素解析で扱う対象は、
極限を取る方向に依らないで微分値が一つに決まる関数とします。
そのための条件を出すために、x+h と y+h の二通りで微分を計算します。
A) x+h とするとき、
lim ({u(x+h,y)+iv(x+h,y)}-{u(x,y)+iv(x,y)})/({(x+h)+iy}-{x+iy})
= lim {u(x+h,y)-u(x,y)}/h + lim i{v(x+h,y)-v(x,y)}/h
= (∂/∂x)u(x,y) + i(∂/∂x)v(x,y)
B) y+h とするとき、
lim ({u(x,y+h)+iv(x,y+h)}-{u(x,y)+iv(x,y)})/({x+i(y+h)}-{x+iy})
= lim {u(x,y+h)-u(x,y)}/(ih) + lim i{v(x,y+h)-v(x,y)}/(ih)
= -i(∂/∂y)u(x,y) + (∂/∂y)v(x,y)
そして、A) と B) の実部と虚部がそれぞれ等しいという条件から、
(∂/∂x)u(x,y) = (∂/∂y)v(x,y)
(∂/∂y)u(x,y) = -(∂/∂x)v(x,y)
となります。
これが コーシー・リーマンの式 です。
この計算は、f(z) が微分可能となる必要条件であることが分かります。
十分条件であることも証明できます(今回は省きます)ので、
コーシー・リーマンの式 は、複素関数が微分可能であることの
必要十分条件となります。
何かを勉強するとき、復習がとても大切です。
何度も繰り返すことで、記憶が定着し、概念が頭の中に形成されていきます。
「微分」という概念を理解するときに、
微分の定義が頭に定着している必要があります。
そのときに、何度も同じ本で同じ定義を繰り返して読んでいるだけでは、
飽きてしまいますし、復習は苦痛になってしまいます。
数学の新しい分野を勉強すると、
その分野での微分を考える必要が出てくるので、
何度も微分を復習することになります。
同じところに留まるための復習よりは、
新しいことをやるための復習として繰り返すことの方が
効率的な復習になるのではないかと思います。
普通の微分の復習のために、複素解析をやってみるのも
良いかもしれません。
複素解析の復習は何でするかというと、その機会はたくさんあって、
その先の「楕円関数論」「複素多様体論」「代数幾何学」など
挙げるとまだまだ出てきます。
--
高野智暢

