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2016.01.13
D-0103. Zernike多項式 — TT
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Zernike多項式
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
連載「知って得する干渉計測定技術!」
2016年1月13日号 VOL.103
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
干渉計による精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。
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今回は、Zernike多項式についてご紹介します。
Zernike とは、物理学者の名前で、
「ゼルニケ」または「ツェルニケ」と読みます。
これまでも直交多項式のご紹介として、
Legendre(ルジャンドル)多項式について、何度も書いてきました。
Legendre多項式は、正方形の領域で完全系を張る直交多項式なので、
フォトマスクの形状と相性が良いということでした。
一方の Zernike多項式は、円形の領域で完全系を張る直交多項式です。
そのため、レンズ系と相性が良く、光学の分野では非常によく使われます。
リファレンスフラットと呼ばれる基準平面を製造するときにもキーとなる
数式であり、ポイントはその回転対称性にあります。
ここでも「対称性」というキーワードが出てきましたが、
これもメルマガ8回分にもわたって話題にしてきた「群」と関係があります。
Zernike多項式もまた、話題に尽きない対象ですが、
今回は、Zernike多項式の一般形から、
いくつかの具体的な項を計算してみることにします。
Zernike多項式の書き方には幾つかの流儀があって、
ここでは、「フリンジ ゼルニケ」と呼ばれる書き方で進めることにします。
座標系は、極座標表示(r,θ)を使います。
まずは、Zernike多項式がどんな形なのか見てみます。
単位円の領域にある形状データ W(r,θ) があるとき、
Zernike多項式 Znm(r,θ) の項で展開することができて、
W(r,θ) = ΣΣ Knm Znm(r,θ)
と書けます。
ここで、Knm は、フリンジゼルニケ係数と呼ばれる数です。
最初のΣは、n=0 から k まで和を取り、
次のΣは、m=-n から n まで和を取ります。
Zernike多項式の各項 Znm(r,θ) の一般形は、
m≧0 のとき、
Znm(r,θ) = Rnm(r) cos(mθ)
m<0 のとき、
Znm(r,θ) = Rnm(r) sin(-mθ)
であり、Rnm(r) を書き下すと、
Rnm(r) = Σ (-1)^j {(n-j)! r^(n-2j)}/{j! (n/2 + m/2 -j)! (n/2 - m/2 -j)!}
となります。
(ただし、ここのmは絶対値を取るものとし、n-mが奇数のときは Rnm(r) = 0 とする)
ここでのΣは、j=0 から (n-m)/2 まで和を取ります。
それでは、Zernike多項式 Znm(r,θ) の項を順に計算してみます。
第1項【n=0, m=0】のとき、
Znm(r,θ) = 1
です。
cos(mθ) = cos(0) = 1 となるのは、よいでしょう。
Rnm(r) を計算するときに、(-1)の0乗とrの0乗が出てきますが、これらも1です。
(r=0のとき、0の0乗になりますが、0の0乗のお話は別の機会に...)
そして、0! = 1 (つまり、0の階乗=1)です!
(0の階乗のお話もまた別の機会に... ガンマ関数と関連して面白い話です。)
これらをまとめると、Z00(r,θ) = 1 となるのです。
n=0, m=0 は、「ピストン」と呼ばれ、平行移動です。
第2項【n=1, m=1】のとき、
Znm(r,θ) = r cosθ
です。
まず、cos(mθ) = cos(1θ) = cosθ です。
そして、R11(r) = (-1)^0 {(1-0)! r^(1-0)}/{0! (1-0)! (0-0)!} = r です。
n=1, m=1 は、「Xのチルト」つまり、傾きのX成分です。
第3項【n=1, m=-1】のとき、
Znm(r,θ) = r sinθ
です。
まず、sin(-mθ) = sin(-(-1)θ) = sinθ です。
そして、R11(r) = r です。
n=1, m=-1 は、「Yのチルト」つまり、傾きのY成分です。
第4項【n=2, m=0】のとき、
Znm(r,θ) = 2r^2 - 1
です。
まず、cos(mθ) = cos(0) = 1 です。
そして、Rnm(r) について和の範囲は、j=0 から (n-m)/2 = (2-0)/2 = 1 となり、
R20(r) = (-1)^0 {(2-0)! r^(2-0)}/{0! (2/2 + 0/2 -0)! (2/2 - 0/2 -0)!}
+ (-1) {(2-1)! r^(2-2)}/{1! (2/2 + 0/2 -1)! (2/2 - 0/2 -1)!}
= 2r^2 -1 と計算できます。
n=2, m=0 は、「パワー」と呼ばれ、フォーカスのシフトを表します。
この先も何かの修行か嫌がらせのように、どんどん長くなる地味な計算が永遠に続きます。
第5項【n=2, m=2】のとき、
Znm(r,θ) = r^2 cos(2θ)
です。
まず、cos(mθ) = cos(2θ) です。
そして、R22(r) = (-1)^0 {(2-0)! r^(2-0)}/{0! (2/2 + 2/2 -0)! (2/2 - 2/2 -0)!} = r^2
n=2, m=2 は、3次の非点収差の0°と90°方向に対応します。
第6項【n=2, m=-2】のとき、
Znm(r,θ) = r^2 sin(2θ)
です。
まず、sin(-mθ) = sin(2θ) です。
そして、R22(r) = r^2 です。
n=2, m=-2 は、3次の非点収差の±45°方向に対応します。
第7項【n=3, m=1】のとき、
Znm(r,θ) = (3r^2 - 2)r cosθ
です。
まず、cos(mθ) = cosθ です。
そして、Rnm(r) について和の範囲は、j=0 から (n-m)/2 = (3-1)/2 = 1 となり、
R31(r) = (-1)^0 {(3-0)! r^(3-0)}/{0! (3/2 + 1/2 -0)! (3/2 - 1/2 -0)!}
+ (-1)^1 {(3-1)! r^(3-2)}/{1! (3/2 + 1/2 -1)! (3/2 - 1/2 -1)!}
= (3×2/2)r^3 - 2r
= (3r^2 - 2)r と計算できます。
n=3, m=1 は、3次のコマ収差のX成分に対応します。
第8項【n=3, m=-1】のとき、
Znm(r,θ) = (3r^2 - 2)r sinθ
です。
まず、sin(mθ) = sinθ です。
そして、R31(r) = (3r^2 - 2)r です。
n=3, m=-1 は、3次のコマ収差のY成分に対応します。
第9項【n=4, m=0】のとき、
Znm(r,θ) = 6r^4 - 6r^2 + 1
です。
まず、cos(mθ) = cos(0) = 1 です。
そして、Rnm(r) について和の範囲は、j=0 から (n-m)/2 = (4-0)/2 = 2 となり、
R40(r) = (-1)^0 {(4-0)! r^(4-0)}/{0! (4/2 + 0/2 -0)! (4/2 - 0/2 -0)!}
+ (-1)^1 {(4-1)! r^(4-2)}/{1! (4/2 + 0/2 -1)! (4/2 - 0/2 -1)!}
+ (-1)^2 {(4-2)! r^(4-4)}/{2! (4/2 + 0/2 -2)! (4/2 - 0/2 -2)!}
= (4×3×2/(2×2))r^4 - (3×2/(1×1))r^2 + (2/2)
= 6r^4 - 6r^2 + 1 と計算できます。
n=4, m=0 は、3次の球面収差に対応します。
いよいよ面倒になってきたので、今日はこの辺にしておきます。
--
高野智暢

