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2025.07.08

A-0156.ピクセル数と投影枚数の関係— T.T

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ピクセル数と投影枚数の関係

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2025年7月8日号 VOL.A-0156

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

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15年程前から、ずっと「ピクセル数と投影枚数の関係」の記事は
いつか書こうと思っていましたが、気づいたら書かないまま、
こんなに長い時間が経っていました。

結論は簡単で、

  s : 投影枚数(= 回転分割数, ステップ数)
  n : 検出器の横方向ピクセル数

とすると、n に対して十分なステップ数 s は、

  s = 0.8 × n

というものです。

例えば、1000×1000 ピクセルの検出器であれば、ステップ数 800、
2000×2000 ピクセルの検出器であれば、ステップ数 1600
と設定すればよいという、分かりやすい話です。

しかし、この導出はひたすら面倒くさいのです。

たまにこの関係式に言及している論文を目にすることがあります。
その場合、ほぼ決まって、

  詳細は、Kak & Slaney : Principles of Computerized Tomographic Imaging
  の 第5章 を参照して下さい。

という常套句が書いてあるだけです。

さて、その第5章をつらつらと読んでみると、
「言いたいことは分かった。原理を聞かれたら Kak & Slaney 第5章を読んで、と答えよう。」
という感想が残ります。


ここで、例によって、抽象度の高い概念の美しく広がる壮大な連続した風景から、
一部のスナップショットを切り取って、一つの記事という額縁に収めて
鑑賞することを考えます。

気分はまるで写真家です。
どこを切り取るか。どこに焦点を合わせるか。背景ぼかしの入れ方をどうするか。

すると、いくつかの難点が浮き出てきます。

個人的にメインは「CTにおけるエイリアシングの数理」になります。
でも、これをまともに書き始めると、主題に到達できない分量になります。
そこで、エイリアシングは背景として描写(記述)し、
美しくないかもしれませんが、なんかうまくごまかします。

次に、この主題にとって最も重要な部分となる係数の確定が問題になります。
これから、本題を書き始めますが、既にあらすじを2通り書いており、
どちらを読んでみても、美しくない。

この(結果のシンプルさとは対照的な)導出の無理やり感が
15年間も筆が進まなかった最大の理由です。

では、前置きはこれ位にして、導出を5つのステップに分けて書いていきます。


ステップ1:
  画像の周波数領域を考えます。
  画像の空間周波数成分 ν の最大値は n/2 になります。
  これは、サンプリング定理から、ν≦ n/2 だからです。

ステップ2:
  投影の角度サンプリングを考えます。
  回転分割数 s は、1回転あたりの投影数です。
  つまり、各投影間の角度間隔 Δθ は、π/s ラジアンです。

ステップ3:
  投影データのナイキストサンプリングを考えます。
  周波数領域でのサンプリング間隔 Δf が
  ナイキスト周波数の2倍を超えないようにする必要があります。
  ここで、画像の最大周波数成分は、n/2 ですので、

    Δf ≦ (1/2)(n/2) = n/4

  という条件が成り立ちます。

ステップ4:
  角度サンプリングと周波数領域の関係を考えます。
  周波数領域でのサンプリング間隔は Δf = 1/(Δθ) = s/π です。
  角度領域でのサンプリングのフーリエ双対性からそうなります。

ステップ5:
  最後にナイキスト限界の条件を考えます。
  Δf = s/π と Δf ≦ n/4 の式を合わせると、
  s/π ≦ n/4 ですから、s ≦ nπ/4 を得ます。
  この条件のとき、ナイキスト限界からエイリアシング
  (高周波数成分が低周波数領域に折り返って現れる)が生じます。
  つまり、

    s > nπ/4

  という条件であれば、角度サンプリングが十分に密であり、
  エイリアシングによるノイズが原理的に抑えられていることになります。
  ここで、0.8 > π/4 なので、

    s = 0.8 × n

  と設定しておけば、条件を満たしていることになります。


さて、これで、きれいにステップ1~5に導出が収まりました。

でも、勘の良い方(批判的に式を追って下さった方々)は、
ステップ2の Δθ= π/s が胡散臭いことに気が付くかもしれません。
1回転360°だから、Δθ= 2π/s ではないか、ということです。

ここまでの導出は、平行光線で考えているため、
360°回しても、180°分の投影データしか得られないという前提です。

でも、実際の装置は、コーンビームで平行光線ではないから、
前提からズレているのではないかという話になります。

せっかく、ステップ1~5できれいに収まりかけたのですが、
コーンビームで導出をやり直す必要があるのかということになります。
(さもなくば、係数の 0.8 が出てこなくなります。)

でも、ステップ1~5の流れは基本的に変わりません。
一方で、コーンビームで考え直すと、詳細を考慮する必要があり、
式も複雑になります。そして、面倒な変換も増えます。
さらには、装置のプログラムが内部でどんな計算をしているかという
ところまで踏み込んで、結局は平行光線と同じ結果だねということになります。

コーンビームの場合の導出としては無理やり感があり、美しくないですが、
平行光線の導出としては、きれいにまとまっていると思います。

実際の装置にこの式を適用する場合はどうするかと言うと、
理論上の式が現実で使い物になるかという検証を行うことになります。

これまでのところ、この式が上手く機能しており、
スキャン条件の良い目安として使えているので、良しとされています。


--
高野智暢

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