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2023.06.28
A-0147. 指数関数のテーラー級数表示を得ようとする話 — T.T
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指数関数のテーラー級数表示を得ようとする話
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
連載「知って得する干渉計測定技術!」
2023年6月28日号 VOL.147
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。
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一般の人でも高度なAIに触れることができるようになった時代ですが、
AIが何でもやってくれるようになったとしても、
人間がやることに意味があることは多く残ります。
自動車の方が速くても、人間は陸上競技を続けています。
チェスや将棋や囲碁も、AIに勝てなくなっても人間はやり続けます。
特に、プロ棋士は仕事がなくなるどころか、
AI時代になって更に活気が出ているように感じます。
AIがプログラミングをやってくれたとしても、
プログラミングが好きな人は、好きなのでやり続けます。
自分も最近、C#のコードを書きながら、AIがやってくれたとしても、
この達成感はAIにやらせたら味わえないのでやり続けたいと思いました。
数学も、好きな人は自分でやりたいものです。
(ガウスは、単純計算も自分でやりたかったそうです。)
特に、数学は、答えを得ること自体よりも、
考える能力を鍛えるという側面があるため、
数学的思考ができる人の方がAIを使いこなせるようになります。
今回は、指数関数について書こうと思いましたが、
指数関数に関連する話題は多く、切り口も無数にあるため、
どんなお話にするか迷うところです。
(どんな文章を書く時でもそうですが、)
まず、スタート地点をどこに置き、ゴール(オチ)はどうするかを考えます。
その次に、どのようなルートを通るかを大まかに決めます。
書いているうちに、横道に逸れたり、最初から書き直したりすることも
ありますが、最終的に、スタートとゴールが明確で、納得のいくルート
になっているかどうかを確認します。
数学の場合、スタートに「定義」と「公理」を置きます。
厳密にやりすぎると、読む人が面白味を感じなくなるので、
上手く(?)調整します。
今回は、指数関数のスタート地点として、
e = lim_{n→∞} ( 1 + 1/n )^n
という定数を置きます。この e という量が、
ある数に収束して、定数になることは、証明が必要ですが、
今は割愛(惜しいと思うものを省略)します。
n は自然数で、1から順に増やすことができ、
lim_{n→∞} は、n を無限大まで飛ばした極限を取るという意味です。
例として、いくつか計算してみます:
n= 1 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1) = 2
n= 2 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1/2)^2 = (3/2)^2 = 2.25
n= 4 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1/4)^4 = (5/4)^4 = 2.44140625
n=10 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1/10)^10 = (1.1)^10 = 2.5937424601
n=100 ⇒ (1+1/n)^n = 2.704813829...
n=1000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.716923932...
n=10000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.718145927...
n=100000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.718268237...
n=1000000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.718280469...
最終的に、n→∞ では、(1+1/n)^n = 2.718281828459045.....
という無理数(そして 有理係数代数方程式の解にならないので 超越数)
になります。この数を e と書きます。
出発点を (1+1/n)^n の極限値にしたので、
それ以外の性質は、定理として証明すべきものになります。
ある性質を証明する際に、証明していない性質を使うことはできません。
(でも全部証明していると前に進まないので、上手い歩幅調整が必要です。)
また、証明に使った性質を証明するために、今証明した性質を使うと、
循環論法になるので、それを避ける練習としてもやる価値があります。
今回の記事は、指数関数のテーラー級数表示に辿り着きたいと思っています。
そのためには、(テーラー展開の定理は使えるとして、)
指数関数の微分の性質を確かめなくてはなりません。
そのためのステップとして、
lim_{x→0} ( 1 + x )^(1/x) = e
の証明が必要です。
本来は、はさみうちの原理でちゃんと証明するべきですが、
書き切れないので、話の流れを止めない程度の簡略で話を進めます。
もう単純に、x = 1/n と置いて、x→0 のとき n→∞ と考えてしまいます。
すると、定義から、
lim_{x→0} ( 1 + x )^(1/x) = lim_{n→∞} ( 1 + 1/n )^n = e
です。
続いて、両辺の対数を取ることで、
lim_{x→0} (1/x) log( 1 + x ) = 1
が得られます。
(暗黙に、証明できるけど、今は証明していない性質を使っています。)
さらに、h = log( 1 + x ) と置くことで、e^h = 1 + x なので、
lim_{h→0} h/(e^h - 1) = 1
ですが、後から使いやすいように、逆数を取って、
lim_{h→0} (e^h - 1)/h = 1
という式を得ます。
ここまで来て、ようやく e^x の微分ができます。
微分の定義より、
(d/dx) e^x = lim_{h→0} (e^(x+h) - e^x)/h
= (e^x) lim_{h→0} (e^h - 1)/h = e^x
なので、e^x の微分は e^x のように変わらないということが分かります。
e^x の微分ができて、テーラー展開の定理が使えるならば、
e^x = Σ (x^n)/(n!)
という指数関数のテーラー級数表示が得られます。
(Σ は、n=0 ~ ∞ の和とします。)
和を明らかに書くと、
e^x = 1 + x + (x^2)/2 + (x^3)/(3!) + (x^4)/(4!) + ...
です。
さて、話の流れとしては悪くない感じがしますが、
定数 e の実数 x 乗 という定義していないものを使ってしまいました。
このギャップを埋めるには、新たな関数
exp(x) = lim_{n→∞} ( 1 + x/n )^n
を定義して、これが、
exp(a + b) = exp(a) exp(b)
を満たすことを示し、
べき乗の e^(a+b) = (e^a)(e^b) から対応関係を元に、
定数 e の実数 x 乗 という拡張をするのが良さそうですが、
今回のこの流れで仕上げるのは諦めます。
最初から、exp(x) = lim_{n→∞} ( 1 + x/n )^n を出発点にして、
exp(1) = lim_{n→∞} ( 1 + 1/n )^n = e
で進めれいればもう少し良かったのかもしれませんが、
今日はもう書き直す元気がありません。
こういうロジックは、ジグソーパズルのように
全てのピースが矛盾なく嵌ったときに、大きな喜びを感じられます。
公式を使えるようになることや、人の組み立てたロジックを辿ることとは違い、
自分で組み立てた時のこの喜びを感じられるからこそ、数学はやめられません。
(そして、その過程では、いくつも穴が見つかり、何度もやり直します。)
ちなみに、この記事を書くのにAIは使っていません。
書きたいことは自分で書きたいものです。
(最近は、ここまでAIに書かせましたが、気付きましたか的なオチも増えているようです。)
--
高野智暢

