メールマガジン・新着情報一覧
- TOP
- メールマガジン・新着情報一覧
- A-0120. 微分方程式の例:タンクの排水 — T.T
2021.03.10
A-0120. 微分方程式の例:タンクの排水 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
微分方程式の例:タンクの排水
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2021年3月10日号 VOL.120
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最近は少し、流体力学と縁があります。
気になったことが、流体に関するものが多く、
そういう時は、関連することに敏感に反応するようになっているので、
ますます流体に関することが気になるというサイクルになります。
学生の頃、「乱流」という専門科目の授業が面白かったなぁ とか、
揚力ってどう計算するんだっけ とか、
あぁ 循環って線積分だったな とか、
ナビエストークス方程式を解きたいなぁ とか、
問題を解いて100万ドルの賞金欲しいなぁ とか、
いろいろ思い出します。
そうすると、
天気予報を見ても、水を見ても、雲を見ても、煙を見ても、
装置に付いている部品を見ても、頭の中は流体力学です。
気になったことは、答えを見る前に、
断片的な記憶から、どれだけ理論の構築を再現できるか
とやってみるのですが、そう簡単ではありません。
そして、忘れていることやそもそもやり切れていなかったことを
勉強したいと思うのです。
そう言えば、タンクの水を抜く場合、
微分方程式になるんだったなぁ と思い出し、
これ位だったら、再現できるかなと思い、計算してみました。
まず、こういうときは、エネルギー保存則です。
水面の高さにある位置エネルギーが、
タンクの底から流出する水の速度になると思うと、
(1/2)mv^2 = mgh
です。速度 v について解くと、
v = √(2gh)
です。g は重力加速度、h は水面の高さです。
これは「トリチェリの定理」で、
ベルヌーイの定理から出す方が本来の流体力学のやり方で、
そのベルヌーイの定理は、オイラー方程式から導出するか、
エネルギー保存則から導出する(結局上記の考え方)か、
ということを後から確認しました。
ここで、帰納と演繹について、考えさせられます。
数学ばかり勉強していると、「定義」「公理」「定理」があって、
「証明」となるわけですが、
トリチェリの定理は、自然法則であって、
実験で確かめれば、それは導出とか証明とかは別に不要なのだな
と思うのです。
科学であれば、仮説と検証です。
そう考えると、今から微分方程式を立てて、
解こうとしている問題は、何をしようとしているのかと
考えさせられるのです。
なぜなら、方程式の解そのものが実験で確かめられる法則なので、
微分方程式から解を導いたというよりは、
解がそうだから、微分方程式は正しいという理屈になります。
「数学と物理の方法論」「帰納と演繹」「具体と抽象」について、
世の中には、もっと上手い説明はありますが、
自分の言葉で、今考えていることを、機会があるごとに
アウトプットする練習をしたいのです。
このように、話が脱線していますが、
脱線が本題で、以下の計算は、おまけです。
(以下の計算は、既に多くの本に書かれていることだと思います。)
ここで、体積 V の時間変化を考えると、
-dV/dt = sv
になります。v は上記の流出する水の速度で、s は開口面積です。
式を立てたら、次元解析をするようにしています。
L^3 T^(-1) = L^2 LT^(-1)
なので、おかしな等号にはなっていないです。
そして、体積 V は、V = Ah のように、断面積 A と高さ h の積なので、
トリチェリの定理と合わせて、微分方程式を書き直すと、
-A dh/dt = s √(2gh)
となり、高さ h に対する 1階微分方程式になっています。
では、これを解きます。
dh/√h = -(s √(2g)/A) dt
両辺を積分します。
このとき、不定積分をして、積分定数を初期条件から求めるか、
最初から定積分するかという選択肢があります。
同じ答えになるので、どっちでもいいと言えばそうなのですが、
それぞれの方法が、どんな概念に対応しているのか
などと考えるのが好きです。
不定積分すると、C を任意定数として、一般解が
h = (1/4){C - (s √(2g)/A)t}^2
となり、初期条件の t=0, h=H から、C=2√H なので、
h = (1/4){2√H - (s √(2g)/A)t}^2
のように解くことができました。
定積分の場合は、h についての積分を H ~ h で実行し、
t についての積分を 0 ~ t で実行することで、
左辺 = ∫dh/√h = [2√h] = 2√h - 2√H
右辺 = -(s √(2g)/A)∫dt = -(s √(2g)/A) [t] = -(s √(2g)/A)t
となるので、同じく、
h = (1/4){2√H - (s √(2g)/A)t}^2
のように解けます。
ついでに、タンクが空になる時間 T は、h=0 を計算して、
T = (A/s) √(2H/g)
となります。
結局、微分方程式を立てて解くことは、
具体的な現象を抽象化して、
もう一度、抽象から具体に落とし込むことになります。
面倒な作業のように見えますが、
個々の現象に対する法則を集めるだけよりは、
共通の法則を本質的なものとして捉えておく方が
応用が利くし、物事の理解が深まるということにつながります。
--
高野智暢

