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2020.10.21
A-0114. コンプトン散乱の式の導出 — T.T
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コンプトン散乱の式の導出
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2020年10月21日号 VOL.114
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
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今回は、X線CTにも関係がある
コンプトン(Compton)散乱について書きます。
この話題は何度も書こうと思いましたが、
どこから始めて、どこまで書くかの選択肢が多く、
どんなオチにするかも悩ましいので、
なかなか書くことができませんでした。
そこで、あれこれ捻ったことを考えず、
まず式の導出計算を紹介することにしました。
状況設定として、
静止した電子にX線光子を衝突させることを考えます。
電子の静止質量を m とし、
入射X線光子の波長を λ とします。
(光速度は c です。)
衝突後、反跳電子のエネルギーが E となり、
反跳電子の運動量は p になったとします。
散乱X線の波長は λ’になったとします。
入射X線の進行方向を基準線として、
(反時計回りに)散乱X線の散乱角度を θ とし、
(時計回りに)反跳電子の進行方向の角度を φ とします。
コンプトン散乱の式を導くには、
まず運動量保存則とエネルギー保存則を書き下します。
運動量保存則は、
x 方向: (h/λ) = (h/λ’) cosθ + p cosφ
y 方向: 0 = (h/λ’) sinθ + p sinφ
エネルギー保存則は、(特殊相対性理論を考慮して)
(hc/λ) + mc^2 = (hc/λ’) + E
となります。
次に、φを消去したいので、
運動量保存則の2式をそれぞれ二乗します。
{(h/λ) - (h/λ’) cosθ}^2 = p^2 cos^2φ
(h/λ’)^2 sin^2θ = p^2 sin^2φ
この2式を足して、sin^2φ + cos^2φ = 1 を使うと、
(1/λ)^2 + (1/λ’)^2 - 2 cosθ/(λλ’) = (p/h)^2
を得ます。これを(式A)とします。
続いて、エネルギー保存則を二乗して、
(1/λ)^2 + (1/λ’)^2 - 2/(λλ’) = (E^2 - 2Emc^2 + m^2c^4)/(hc)^2
を得ます。これを(式A)と比較すると、最初の2項が共通で、
第3項も上手く括れるので、これら2式を引き算すると、
2(1 - cosθ)/(λλ’) = (p^2c^2 - E^2 + 2Emc^2 - m^2c^4)/(hc)^2
となります。
ここで、特殊相対性理論におけるエネルギーと運動量と質量の関係式が
E^2 - p^2c^2 = m^2c^4
なので、
2(1 - cosθ)/(λλ’) = 2(Emc^2 - m^2c^4)/(hc)^2
というところまで計算を進められます。
そして、もう一度、エネルギー保存則を思い出して、変形すると、
E - mc^2 = (hc/λ) - (hc/λ’)
なので、さらに計算を進められて、
(1 - cosθ)/(λλ’) = (mc^2){(hc/λ) - (hc/λ’)}/(hc)^2
となります。これを整理すると、
λ’-λ = {h/(mc)}(1 - cosθ)
が得られます。
これがコンプトン散乱の式です。
この式についてコメントしようとすると、長くなりそうなので、
今回はここまでにします。
--
高野智暢

