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2017.09.13
A-0074. シンク関数を積分してみましょう — TT
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シンク関数を積分してみましょう
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2017年9月13日号 VOL.074
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。
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シンク関数は、矩形関数のフーリエ変換なので、
電気や光学をはじめ、様々な工学や物理学の分野で登場します。
純粋に数学の対象としてもシンク関数は興味深いものです。
今回は、シンク関数を積分してみます。
まず、積分されるシンク関数は、
(sin x)/x
です。
これを実数の範囲で、0~∞ まで積分します。
式で書くと
∫(sin x)/x dx
です。積分範囲が 0~∞ の定積分です。
これは、実数の範囲の積分ですが、
複素数の範囲で考えることで解くことができます。
まず、sin x を指数関数に分解すると、
sin x = { exp(ix) - exp(-ix) }/(2i)
ですから、
シンク関数 (sin x)/x を考えるには、
f(z) = exp(iz) /z
を考えると都合が良いことが分かります。
変数を z にしたのは、複素数の範囲で動くことを忘れないためです。
シンク関数に戻るときは、z を実数(変数は x と書く)に制限して、
{ f(x) + f(-x) }/(2i)
= { exp(ix) /x - exp(-ix) /x }/(2i)
= (sin x)/x
とすれば良いのです。
さて、f(z) を積分するために、積分路を決めます。
実数の積分では、実数直線上を積分すれば良かったのですが、
複素数で積分するので、どの曲線に沿って積分するのかを
決めてあげなくてはなりません。
そのために、f(z) の特徴を確認します。
z を 0 に近づけていくと、分子は 1 ですが、
分母に z があるため、無限大に発散していきます。
そのため、z=0 は特異点です。
でもそれ以外の場所には特異点がありません。
そこで、コーシーの積分定理を使います。
特異点がない領域を囲むように一周グルっと積分すると
積分値が 0 になるという定理です。
特異点になっている原点 z=0 を上手く回避する積分路として、
複素平面の上半分に、原点を中心とする半径εの半円周(E)と
半径 R の半円周(C)を描きます。
すると、実数上の -ε から半円周 E を通り、実数上の ε に行き、
実数直線(正の部分)を通って、実数上の R に至り、半円周 C を通って、
実数上の -R に行って、そこから実数直線(負の部分)を通って、
実数上の -ε に戻るという経路が描けます。
特異点を上手く避けていますので、積分値は、
∫f(z)dz = 0
となります。
これを積分路ごとに分割して書くと、
(時計回りで半円周 E)+(ε~ R)+(反時計回りで半円周 C)+(-R ~ε)= 0
になっています。
ここで、実数上の経路が丁度、
(ε~ R)+(-R ~ε)= 2i ∫(sin x)/x dx
のようにシンク関数の積分になっていることが分かります。
従って、
(時計回りで半円周 E)+(反時計回りで半円周 C) = -2i ∫(sin x)/x dx
とできるので、半円周 E と 半円周 C での積分値が求まれば、
シンク関数の積分が分かることになります。
半円周 E の計算のために、f(z) をローラン展開します。
f(z) = 1/z + P(z)
と展開することができます。
ただし、z のベキ級数の部分は P(z) とまとめてあります。
半円周 E で積分すると、|P(z)|< M としたときに、
|∫P(z)dz|< M|∫dz| = M|∫εdθ| = Mεπ
と計算できるので、
ε→0 で、|∫P(z)dz|→0 となり、無視できることが分かります。
一方の 1/z の積分は、z = εexp(iθ) で変数変換しておくと、
dz = iεexp(iθ) dθ なので、
∫(1/z)dz = i∫dθ = -iπ
と計算できることが分かります。
ここまでで、半円周 E の部分は ε→0 で、
∫f(z)dz = -iπ
だと分かりました。
次に、半円周 C での積分です。
z = R exp(iθ) = R(cosθ + i sinθ) と変数変換すると、
dz = iR exp(iθ) dθ ですから、
∫f(z)dz = i∫exp(-R sinθ + iR cosθ)dθ
と計算できます。
左辺の積分は半円周 C に沿ってですが、
右辺の積分は 0~π の範囲です。
これも絶対値を計算してみると、
|∫f(z)dz| ≦ ∫exp(-R sinθ)dθ
です。
右辺の積分範囲は、0~π ですが、
0~π/2 の範囲で積分することで、値が丁度半分になるため、
|∫f(z)dz| ≦ 2∫exp(-R sinθ)dθ
と書き直すことができます。
すると、0~π/2 の範囲で 連続でかつ常に正となる
sinθ/θ の最小値を m と置くことで、
m ≦ sinθ/θ
ですから、mθ ≦ sinθ を使って、sinθを置き換えると、
|∫f(z)dz| ≦ 2∫exp(-Rmθ)dθ
となります。
右辺の積分範囲は、0~π/2 ですが、
不等号を変えないで、0~∞ の範囲にすることができます。
∫exp(-Rmθ)dθ = {1/(-Rm)}×{exp(-Rm×∞) - exp(-Rm×0)} = 1/(Rm)
のように計算できますので、
半円周 C の部分は R→0 で、
∫f(z)dz = 0
だと分かりました。
これでようやく、
-iπ + 0 = -2i ∫(sin x)/x dx
であることが分かりましたので、
∫(sin x)/x dx = π/2
と計算することができました。
留数定理を知っていれば、
特異点の周りで一周積分すると、留数だけが残るため、
複素関数の積分がひどく簡単になります。
シンク関数の積分の場合、
特異点の周りを一周するわけではないので、
留数定理を直接には使えません。
でも、上記のように一度計算を確認しておくと、
留数の半分の値になっていることに気付きます。
つまり、原点を半周だけしているので、
留数を半分だけ拾ってくると覚えておけば、
済むようになります。
--
高野智暢

